歌手・ボーカルとして活動している人で、高音が出ない、音域が狭いことに悩んでいる人は多いですよね。
歌手活動をしていた頃の僕自身も、これと同じ悩みを持っていました。僕は男性ですが、確実に出せるのはmid2D(=高い「レ」)まででした。邦楽も洋楽も、ほとんどの曲を原曲と同じ音域で歌うことができませんでした。
何年もボイストレーニングに通い、音域の広げ方について書かれた本を何冊も読み、自宅でも練習を続けました。それでも、音域は広げたくても広がりませんでした。いくら練習しても高音が出ないことに、いつも自己嫌悪を覚えていました。
何年か経ったあるとき、僕は開き直って「歌う曲のキー(=音域)を下げる」という決断をしました。当時は、そのことを「逃げ」だと捉えていて、とても自己嫌悪に陥りました。
しかし意外なことに、キーを下げた途端、歌声を褒めてくれる人が大量に増えたのです。
それまでは「高音が無理しているようで聞き苦しい」と指摘されることが多く、音域を広げることでそれに対応しようとしていました。
しかし、いざキーを下げてみると、「声が透き通っている」「聴いていて心地が良い」と言われるようになりました。そんなことを言われたことはほとんどなかったので、とても驚いたのを覚えています。
そして、無理なく気持ち良く出せる音域で歌うことで、聴く人にとっても一番気持ち良く聴こえるということに気づきました。
高音が出ない・音域が狭いことで自己嫌悪に陥っている人や、「キーを下げるなんてとんでもない」と思っている人に読んでほしいと思います。特に、プロの歌手を目指す人に読んでほしいと思います。
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無理な高音は喉を痛め、取り返しのつかないことになる危険性も
他人の楽曲をカバーするとき、原曲と同じキー(=音域)で歌うべきだと言う人は多いです。まさに、僕も同じ考え方でした。
キーを下げて歌うのは逃げであり、プロの歌手を目指している自分がそれをするなんて絶対にいけないと思っていました。このため、無理に声を張り上げて高音を出そうとしていました。
無理して原曲と同じキーで歌うべきでない最大の理由として、喉を痛めるリスクがあります。男女で音域が大きく異なるように、同性間でも得意な音域は全く違います。
このため、無理に高音を出そうとすると、必ず喉に負担をかけてしまうことになります。この結果、声質が変わってしまったり、さらに高音が出なくなってしまったりした歌手の例をたくさん知っています。
喉は他の楽器と違い、一度壊してしまえばそこで終わりです。楽器であれば買い替えたり、修理に出したりすることもできます。しかし、喉は買い換えることができません。一度壊してしまえば、二度と使えなくなってしまう可能性が高いのです。
だからこそ、無理をして音域を広げようとしては絶対にいけません。
歌いやすい音域=聴きやすい音域
楽曲の音域は、その歌手に合わせて作られています。なぜなら、歌手自身が自然に気持ちよく出せる音域こそ、聴く人にとっても心地よいものだからです。
ぜひ、あなたの好きなミュージシャンの楽譜を買ってみてください。同じアーティストの楽曲は、ほとんど同じ音域を取っていることがわかります。
例えば、この歌手の曲中の最低音はだいたいmid1Dかmid1Eあたりで、最高音はだいたいmid2GかhiA…のような感じです。
これは、作曲者がその歌手の得意な音域に合わせて、すべての楽曲を制作していることの証拠でもあります。
ここで、重要なことがあります。それは、原曲の音域というのは、その歌手が得意な音域であって、あなたの得意な音域ではないということです。
したがって、あなたが無理にその音域に合わせて歌おうとすると、喉に負担がかかってしまいます。結果、低音は聞き取りづらく、高音は聞き苦しくなってしまいます。
僕が指導しているミュージシャンが、音域を「靴」に例えていて、なるほどと思いました。
かっこいい靴でも、自分に合わないサイズのものを履けば、靴擦れを起こしてしまう。だから、自分に合ったサイズの靴を履かなければいけないと言っていました。すごく上手な例えだと思います。
あなたにも、無理なく一番良さを発揮する音域があるはずです。この音域こそ、聴く人にとっても最も心地よく、最も感動させられる音域です。
音域が広い人から売れるわけでも、プロになれるわけではない
プロの歌手を目指している人に言いたいことがあります。それは、音域が広い人から歌手になれるわけではないということです。また、音域が広いほど売れるわけでもありません。
僕は2011年からイベントを企画して、1100組を超えるアーティストを見てきました。今では、プロデュースの仕事もさせてもらっていますが、これだけは自信を持って断言できます。
そもそも、一般の人は「この歌手は音域が狭いな」「この人のmid2Gは綺麗だな」などと考えながら歌を聴いているわけではありません。そもそも、そこまでの知識はありません。
確かに、歌の専門家であるボイストレーナーや音楽仲間は、あなたの音域が狭いことを指摘してくるかもしれません。それによって、多くの歌手が音域の狭さをネガティブに捉えます。そして、それを無理に広げようと努力します。
特に、ボイストレーナーの中には、生徒の音域を広げさせることを自分の実力だと思い込んでいる人がいます。しかし、音域が1つ広がったところでプロになれるわけでも、売れるわけでもありません。
言葉は悪いですが、リスナーのほとんどは素人です。数少ない歌の専門家たちを納得させたところで、その価値は大多数の人には伝わらないのです。
そこに気づかず音域を広げたり、高音を出したりすることばかりに執着していると、単なる自己満足で終わってしまいます。
キーを下げ、自然に出せる音域で歌うと評価が上がる
僕がキーを下げることを決めたとき、「自分は音域を広げることから逃げたんだ」という嫌悪感しかありませんでした。
しかし、ライブ終了後のアンケートなどで、声を褒めてもらえる機会が増えました。特に、「透き通るような声」「聴いていて気持ち良い」などと言われることが増えました。
キーを下げたことで、サビが無理なく出せる音域に来ました。これにより、声の良い部分が引き立つようになったのだと思います。
このとき、「自分の得意な音域で歌うことで1番聴く人を感動させられる」ということを学びました。そして、音域が狭いことで悩んでいた自分の間違いに気づきました。
そして何より、歌うことが楽しくなりました。力を入れず気持ちよく歌えるようになりましたし、音域を広げることに対する強迫観念も消えました。
僕が企画するライブに出演してくれる歌手にも、音域が狭いことに悩む人は多いです。そこで僕が「キーを下げてみたらどうですか」とアドバイスをするのですが、拒否されてしまうことが多いです。
分かるんですよ。気持ちは。僕もそうだったから。キーを下げるなんて、逃げだと思っていたから。
それでも、僕はあなたに何度でも伝えたいと思います。音域が狭いことを恥ずかしかったり、無理に改善させたりする必要はありません。
それよりも、自分に合った音域で歌うことが、一番多くの人を感動させる歌手への近道です。なぜなら、あなたが気持ちよく歌える音域こそ、聴く人にとっても1番気持ち良い音域だからです。
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